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��國問題を考える

平成１８年９月寄稿

泉　五郎

一　��國問題を考える

　中国は外交の切札として、事ある毎に��國問題や南京事件等を持ち出す。古来中国がいくら「白髪三千丈」のお国柄であると云つても、南京事件等の誇張虚妄(きょもう)はもっと世界に知らしめなければならない。然し、本当はそれ以前に、国民にもっと歴史の真実を知らさなければならない。

それにしても中国は文化革命以降、それが共産政権の特徴でもあるのか、内政外交にやることが甚だ卑しい。

韓国もその点は似たようなものである。

韓国にとつても今や、それは甚だ不本意であるかも知れないが、��國神社には約二万一千柱の朝鮮籍の人々が祭神として合祀されている。このことを、韓国民は一体どう思っているのであろうか。

更に、台湾籍の人々で��國に合祀(し)されている英霊も約二万七千柱とのことであるが、中国にとつて彼等は祖国に弓を引いた不逞(てい)の輩(やから)とでもいうことになるのであろうか。

　然し中国、韓国にとって、公人の��國参拝ほど弱腰日本に対し、イチャモンをつけるに都合のよいものはない。

　古来その善悪を問わず死者に寛容な日本古来の民族性につけ入るその卑しい魂胆には、世界の国々も内心軽蔑(べつ)しているのではなかろうか？

　然し外国の思惑は別として、私にはかねてより��國をどのように考えたらよいのか、些(いささ)か釈然としないものがある。

二　何故��國神社に参るのか？

勿論それは人夫々であろう。私の場合肉親では、十四才年上で大変優しかつた兄が在満中現地召集された。もともと華奢(きゃしゃ)な体質であつた為か、召集後半年余りで二十年の春戦病死した。命日にはお参りしなければとは思うが、クラスの慰霊祭の際一緒にお参りしたことにして勘弁して貰っている。

然し、クラスの英霊については誰から意識してよいのか難しい。祈るべき英霊が余りにも多すぎるからである。他にも先輩後輩、実施部隊での戦友など、しかも、申し訳ないが年がら年中��國に参詣するわけでもないので、何かのついででも無ければあまり自発的に行く事はない。　

��國に参った時には、兄を含めて、つくづく死んだ連中が気の毒であつたと思うばかりである。戦後は多少の苦労もあつたが、今の我が身に較べてみると死んだ人々の余りの不幸さに、言うべき言葉が無い。

　戦後の日本は海外領土の総てを失いながらも、戦前に較べると物質的には、人間として贅(ぜい)の限りを尽しているといつても過言ではない。生き延びたお陰で日本人は世界一の長寿すら手にした。　片や非業の死、片や老後を持て余すほどの幸せ！一体何故こうも違うのか？　

総ては運命、そして現在日本人の物質的幸福は戦後の努力の賜物とは言いながらも、余りにも違い過ぎる。

　これらの総ては敗戦を契機に変化した。その総ては戦没者三百万の犠牲の上に成り立っているのである。その犠牲によってこそ今日の平和と繁栄、民主主義国家への道が拓(ひら)かれたのである。　

この戦没者を悼む気持ちが、我が身の安寧や物質的な充足感を思うとき、自ずと感謝の気持ちに変わるのは人間として当然のことではあるまいか。私が��國の社頭で捧げるのはこの犠牲に対する追悼と感謝の念だけである。然しＡ級戦犯合祀のことが頭に浮かぶと些か釈然としない。

三　何故釈然としないか

いたって簡単である。Ａ級戦犯の彼らは極東軍事裁判がなければどんな責任をとったであろうか？と思うからである。

そしてＡ級戦犯の逮捕が始まったのは九月十日、敗戦を終戦といいくるめて約一月足らず、その間彼らはどうしていたか？

恐らくビクビク日を過ごしたことであろうが、或いは何とか命だけは助かりたいと願っていたのであろうか？

一方その間、無残にも幾人もの人が自決をとげた！君国に詫び、部下に詫びてのことである。その数約六〇〇名、その内将官の自決は陸軍の阿南大将他三十一名、海軍では大西中将他六名、以下先輩後輩同期生、その他官民を問わず中には夫人はおろか子供まで一家道連れという悲惨な例もある。

私の身近な例でも妹の義兄は割腹。新妻もその死を見届けてピストルで自決した。

同じく終戦の約百日前、我が乗艦伊三六九潜が幸運にめぐまれ、僅かながらも食糧補給に成功した悲劇の孤島メレヨンの指揮官北村陸軍少将は、帰国後餓死した部下達の慰霊巡拝を終えた後翌年自決、海軍の宮田司令も同じ頃自決された。補給途絶のための悲劇であって現地指揮官の責任ではない。

こ　のような中級下級の自決者に較べると本来ならばもっと責任を感じなければならない彼等、Ａ級戦犯の連中は実にシレットしたものである。そしてノウノウとして無様にも縄目の汚辱を受けた。もっとも東條にいたつては、誰が見ても判るピストル自殺の猿芝居を演じ国民の憤激を買つたが、彼らが国民に敗戦の責任をとつたという話は聞いていない。

　極東裁判の茶番劇で、いくら検察陣に反論し、大東亜戦争の正義を論じても、国家国民に対する敗戦の罪が許されるものではない。

　それにしても死刑直前の彼らの辞世の句がなんともやりきれない。

踏み出せば　狭きも広く　変わるなり　

二河白道も　かくやあらなん　

　　　　　　　　　　　　　　土肥原賢二

わが事も　すべて了りぬ　いざさらば　

さらばここらで　はいさ様なら

　　　　　同じく　　　　土肥原賢二

天地も　人もうらみず　一すじに　

無畏を念じて　安らけく逝く

　　　　　　　　　　　　松井　石根

散る花も　落つる木の実も　心なき

さそうはただに　嵐のみかは

東條　英機

今ははや　心にかかる　雲もなし

　　　心豊かに　西へぞ急ぐ

　　　　　同じく　　　　東條　英機

西の御殿に　火急な御召し　

陸は遠み　船には弱し　　　

ままよ船頭さん　夜中じゃあるが　　

向う岸まで　　お願い申す

西の殿様　　気のよいお方　

御馳走たくさん　　下さるだろう

還りゃ気ままに　一人で渡る

お酒みやげじゃ　寝てござれ　

武藤　章

今はただ　妙法蓮華と　唱えつつ　

鷲(わし)の峰へと　いさみたつなり

板垣征四郎

さすらいの　身の浮き雲も　散りはてて　

真如の月を　仰ぐうれしさ

　　同じく　　　　板垣征四郎

風来疎竹　風過而竹不留声　

（菜根譚の一節）　　　　　　　　

　広田　弘毅

うつし世は　あとひとときの　われながら

生死を越えし　法のみ光り　

木村兵太郎　

達観した心境、私人としては誠に結構であるが、この句を読む限り、公人として敗戦の責任を感じている様子はどこにも窺われない。立派なものである。

この辞世の句は新入りの彼らが先に彼の地で待っていた英霊へのご挨拶でもある。　

流石皆さん大将大臣級の貫禄である。矢張り彼の地でも威張ってござるのだろうか、こんなことを考えると頭がクラクラする。

あまりにも無残、余りにも心が痛む。自決者の遺書については枚挙の暇もないので、前記新妻の遺書の一部だけを書き抜いてみよう。

・・・「このたび（夫）　隆　武人として御奉公至らざりしを、一死以ってお報いせんとのお覚悟、玉恵も妻として隆の御最後を見とどけ自決いたします。これより後は高天原から隆とともに、祖国の復興に御奉公申し上げます。」・・・とある。　

聯隊長の息女ではあったらしいが、年は僅かに二十三歳、今なら遊び盛りの小娘が、死して御国の行末を思う哀れな心根に較べ、彼らの辞世の句は何という相違であろうか？

勿論彼らとて国家国民に対しては勿論、天皇に対しても申し訳ないと思い、それなりの言動はあつたに違いない。

然し、これら辞世の句は死に臨んでの彼らの本心を表しているものと考えるのが妥当である。

そこには己が安心立命を願うのみであって日本の行末を案じている様子は一向に窺うことができない。一体どう考えればよいのだろうか？

それとも彼らは法廷で欧米列強のアジア侵略の非を明らかにし、大東亜戦争の正義を論じ尽くしたので、今更誰にも詫びる必要はないと考えていたのであろうか？

四　敗戦の責任は誰がとつたか？　

彼らは理不尽な理屈で処刑されたが、それはそれとして、私には彼らが国家国民にたいし、自ら責任をとったとは到底思えない。

然し、今次大戦を結果として考えてみれば、父祖が心血をそそいで手に入れた朝鮮、台湾、千島、樺太、南洋諸島等多くの海外領土権益を失った。それよりも何よりも三百万の尊い人命を犠牲にした戦争指導者の責任を、日本国民が国民自らの手で糾明しようとしなかったのは誠に不思議である。

昭和二十年八月十五日、天皇の終戦の詔勅とともに、国民に呼びかけられた合言葉は一億総懺悔(ざんげ)である。誰が発明した言葉か知らないが、何とも都合のよい言葉ではないか！

一体誰に懺悔せよというのであろうか？これは勿論天皇に対してである。

開戦以来敗北という言葉を一切認めなかった指導者達は「なんと国民よ、お前達の努力が足りなかつたから天皇にお詫びしろ」と、その責任を転嫁しようとしたとしか思えない。

この一億総懺悔という言葉ほど国民を愚弄(ぐろう)したものはない。完全に政府の統制宣伝機関と成り下がつていた時のマスコミにも勿論、社会の木鐸(ぼくたく)としての自浄能力はなかった。かくて敗戦の責任はまんまと国民に擦りつけられた。

考えてみれば今までの永い歴史で、遠くは蒙古来襲、幕末には西欧諸国からの開国を迫まられた以外に、日本は直接外国からの侵略の危機に曝(さら)された事は無い。

空を覆うＢ29の群れ、地を焼き尽くす原爆の猛威にも、狂気の徹底抗戦を叫ぶ一部軍人はいたが、彼等とて心底に勝利の確信などあった訳ではない。その日本が開闢(かいびゃく)以来初めて味わう無条件降伏という事態である。

昭和天皇と老宰相鈴木貫太郎との阿吽(あうん)の呼吸によって漸く平和への道が開かれたが、朝野を問わず時の指導者たちは勿論国民も呆然自失の体たらくであつた。

が然し、事ここに到つても軍部は敗戦を終戦と言いくるめるほどの悪知恵だけは立派なもので、国内問題としも敗戦責任の追及など輿論は到底沸騰しなかつた。

　国民の圧倒的大多数はやれやれこれで戦争は終る、命だけはなんとか助かつたと云うのが本音で、むしろこれからどうやって生きて行けるのかが大問題であつた。

当時戦争指導者の責任を問うなどの発想は、永いあいだ官尊民卑の専制に馴らされて来た一般国民の常識では論外の沙汰であつた。

そんな事より占領軍がどのような報復行動にでるか、男は総て去勢されるとか、女は犯され放題とか、一部では今から考えると噴飯(ふんぱん)ものともいえるくらいのデマも流れた。　　

戦時中の記録は総て焼却せよとの指令で、恥ずかしながら当時の日記や手紙の類まで、今となっては私にとって大変貴重な品まで処分した。詰まるところ、指導者に踊らされたとはいいながら、国民の間にも戦争完遂に協力してきたという負目もあったであろう。

敗北の汚名、占領という屈辱を蒙りながら自ら為政者の責任を追求できなかったという民権意識の欠乏、これ以上の歴史的痛恨事はない。

同じ同盟国であったイタリアでは戦局悪化とともにムッソリーは逮捕され、一旦ヒットラーに救出されたが、最後は愛人と共に電信柱に逆さ吊りにされた。

自らの運命を悟ったヒットラーも愛人と共に毒を呷(あお)った。南米の地の果てに潜んだナチス残党も六十年後の最近逮捕されたとか。革命は常に前政権の責任をあくまで追及しようとするのが歴史の常である。

然し、一部の共産党員等を除いて歴史的には易姓革命の思想など全く無かった日本人、本質的には侵略とか闘争を好まない農耕民族は只々呆然として事の成り行きを待つばかりだったといえよう。　

むしろ日本は、国民の殆どが政権の責任者とともに自らも敗者として無条件に連合国の軍門に下つたと意識していた。

国内最大の異民族である朝鮮人のみが棚ぼた的に開放されて有頂天になった。

然し、朝鮮人には日本の敗戦はむしろ歓迎すべきことであって、敗戦の責任を追及する必要など更にない。

斯くて日本は唯々諾々として連合軍の進駐を受け入れた。日本に進駐した連合国側にとつては、日本に対する各種の占領行政が斯くも順調に行なわれるとは思いもよらなかったことであったろう。

マッカーサーには日本が御し易きこと羊の如しとでも思えたことであろう。

五　一体戦争責任とは何か？

今更論じるまでもないが、外には開戦、内には敗戦の責任ということであろう。

然し、もともとこれは楯の両面であって敵にとっては開戦責任、味方からすれば敗戦責任である。これを恰も別物の如く論じるのは全くの詭弁である。そして開戦の責任は、東京裁判の名のもと、戦勝者である連合国によって裁かれた。東京裁判など、どんなに勿体付けても所詮は勝者が敗者に対する報復裁判にほかならない。

主要都市に対する無差別爆撃や、たった二発の原子爆弾で幾十万無辜(むこ)の一般市民を殺戮(さつりく)しながら、国際法がどうのこうの、捕虜虐待がどうのこうの等というのは論外の沙汰である。　こんなものは議論の埒外である。

日本にとっての問題は敗戦の責任をどう考えるかである。敗戦によって、維新開国以来父祖が流した血と引き換えに得た海外領土と三百万になんなんとする多数の犠牲者を出した政治、外交、軍事的大敗北の責任である。

　勿論これは開戦時の東條内閣だけの責任ではない。極端に言えば日露戦争で奇跡的な勝利を収めた日本は、己の姿を見失つたのみならず、欧米列強の真の姿やその本質も見損ない、正に現在の北朝鮮を思わせる道を歩んだというべきであろうか。

東條の後を継いだ小磯内閣も敗勢挽(ばん)回不可能を知りながら、更に破滅への道を選んだ。

ある意味では東條内閣以上の責任と云わねばならない。

日本は敵を知らず、己を知らずして戦争を強行した。緒戦こそ一時的には優勢であったが、敵の本格的反攻に遭うや忽ち国力の差は歴然とした。

局地戦での勇戦奮闘はあっても、大局的にはまさに連戦連敗の戦局であつたといつても過言ではない。

この責任をどう考えるべきであろうか。

六　軍部の無責任体質　

実は戦略的な敗戦責任の追及以上に、戦時中からも個々の戦闘における戦術的な敗戦の責任追及についても甚だ不届き千万なものであつたと云わざるを得ない。

然し、日露戦争までは、例えば一例として旅順要塞の攻略に多くの戦死者をだした乃木将軍や、ロシア極東艦隊に手古摺った上村提督が、国民の非難怨嗟(えんさ)の的に曝(さら)されたことでも判る様に、軍部も未だ国民に対し謙虚であり、正直であつたといえよう。

それが日露戦争に勝ったお蔭で軍国主義の台頭を許した。そして富国強兵の旗印のもと、次第に軍に不都合なことは一切秘匿されてきた。

今次大戦のことだけを考えてみても、戦争宣戦布告の遅れという外交上痛恨の一大事、軍事的には中途半端なハワイ攻撃、そしてミッドウェイの大敗戦以降総ての不祥事は、軍事機密名のもとに見事に歪曲隠蔽されてきた。

今、改めて当時の新聞報道等を見ると、よくもこれだけ嘘がつけたものだと感心する。

十八年六月の戦艦陸奥の爆沈のことなど、今なら忽ち防衛庁長官は勿論、総理大臣の首も吹き飛ぶような大事件も、うやむやの内に誤魔化された。

海軍に育てられた我々といえども、その非を否定することはできない。

艦と運命を共にした多くの艦長、サイパン、硫黄島、沖縄など孤島の指揮官、或いは敢えて勘繰れば覚悟の上であったかも知れない山本聯合艦隊司令長官の戦死など気の毒な例もある。

然し、大局的には劣勢挽回の見込みのないことを感じつつも、漫然と戦争を遂行した海軍首脳はどのように敗戦の責任を感じていたのであろうか。

尤も、このような議論は今になって云えることで、当時はあらゆる作戦の失敗も秘匿が作戦遂行上当然のこととして罷り通っていたのである。

勝った、勝ったと浮かれていた国民もミッドウェイの頃からどうも怪しいぞと感じ始めたが、国粋主義や村社会的な規範に縛られてきた一般国民は、政治批判は愚か弾圧を恐れて軍事優先に協力せざるを得なかつたのである。

その性向は敗戦という事態を迎えても直ちに変ることは至難であつた。

　成程、所謂職業軍人や高級官僚政治家は戦後一時期、上は国家の枢機を管掌してきた者から、下は現場での指揮監督に当ってきた者まで、一斉に公職から追放された。

　我々下級将校であった者の立場からすれば、誠に怪しからぬ話であったが、これも占領軍の命によるものであつて、日本が国家として自発的に行なったものではない。

　しかも日本を敗戦に導いた戦争指導者は、軍人、官僚、政治家、学者から右翼まで、大物で自らその責めを負つた者は極めて少ない。そして概ねその連中が戦犯に問われたと云うべきではなかろうか。

七　連戦連敗の責任は？

正直な話、日本海軍は緒戦の奇襲による真珠湾米海軍への一撃、或いは英国東洋艦隊の主力殲(せん)滅という戦果を挙げた。いずれも航空戦力によるものであったが、海軍首脳の頭の切り替えは充分ではなかった。

開戦当初こそゼロ戦はその優位を誇つたが、総合的国力の差の前には忽ち敵の餌食と化した。

大和ホテルや武蔵旅館と自嘲された世界最大の戦艦は凄惨(せいさん)悲愴(ひそう)な終焉をむかえたが、最後までこれといつた戦果を挙げることはなかつた。

大局的に考えれば、大艦巨砲、砲術優先という時代遅れの体制のまま、近代消耗戦に突き進んだ戦術思想そのものにも既に大きな誤りがあつたといえよう。

　敵の反攻に曝(さら)されるようになってからの陸軍にいたつては、極論すれば時代遅れの三八銃すら満足に装備できない足軽軍団に等しい。

一銭五厘で集めた頭数だけで戦いに勝てると信じた陸軍首脳部の無能無責任ぶりは、正に万死に値すると言わねばならない。　

更に特攻が始まると陸軍も我遅れじと碌(ろく)スッポ海上飛行もおぼつかない飛行機をくり出した。

然し、比島で特攻を指揮しながら中将富永恭次は、我が身に危険が迫ると忽ち、台湾に敵前逃亡した。陸軍当局は彼を懲罰どころか予備役編入でお茶をにごした。

後をついで陸軍特攻を指揮した中将菅原道大も、のうのうと命を永らえている。

因みに彼の名で出されたという檄(げき)文を文末（注１）に掲載しておいたが、彼自身とて特攻の成果を確信してのことではあるまい。　　

部下には死んで来いと命じながら、彼はそれに見合う責任をとつたとは思えない。

　勿論中には戦後陋(ろう)屋に蟄(ちっ)居して謹慎一筋の老後をすごした将軍提督の何名かが存在したことも事実である。

然し参謀連中の中には戦時中の知名度をよいことに、戦後も政財界で結構幅をきかした連中も多い。

八　その責任不問の根底にあるものは？

それは隠蔽(ぺい)体質を当然とする仲間意識と序列意識である。

この意識は単なる意識ではなかつた。私も戦後の職業軍人という呼称には甚だしい侮辱感を覚えたが、そもそも軍人を志願したのは職業としてその道を選んだのではない。

陛下の股肱(ここう)の臣として国家防衛の任に当たろうという使命感によるものである。

少なくとも戦時中は職業という語感から来る金銭的な損得勘定を考えたことはなかった。

そこに在るものは君国のためお互い生死は共にしようという同志的結束であり、強烈な仲間意識である。

しかもそれは軍律という強固な鎖即ち序列意識で縛られていた。

　海戦に於ける「指揮官先頭、死なば諸共」の伝統的精神に支えられた海軍に於いては、戦後も先輩後輩の序列意識は強く残存した。

陸軍ではエリート参謀族が階級序列を超えて権勢を振るい、海軍では考えられない下克上の傾向が相当強かつたと思われるが、その陸軍に於いても然りである。

　更に、官僚は勿論一般社会においても戦前は先輩後輩の序列意識が、ある意味ではそれが安定した社会秩序を維持し、或いは戦後の経済発展を支えたことも事実である。

更にまた、戦後の民主主義の導入や、左翼勢力の台頭による秩序破壊の嵐も、永い伝統と歴史に培われた農耕民族のこの村社会的な伝統的精神構造は、一朝一夕に変えられるものではなかつた。

　そのような国民的風土の故か、開戦までの政治的指導者たちは勿論、敗戦に到るまでの作戦指導の大いなる過ちについても一向に論議が進まない。論議されても至って歯切れが悪い。

Ａ級戦犯合祀の過ちは、この国民的風土に遠因があるように思える。

九　然し、敗戦責任は単なる過失では済まされない。

勿論、罪刑法定主義の大原則に照らせば、それが空前の過失責任であっても通常の国内法では戦争指導者の責任を犯罪として裁くことは出来ない。

寡聞(かぶん)にして何処かの国の憲法に外国と戦って敗れた場合の指導者の責任が規定されているという話も聞いたことがない。

　然し仮に所謂常識的な法的責任を問うことは出来なくても、彼らには言葉では言い尽くせない人間的、道義的、超法規的責任があると言わねばなるまい。

　彼等は己の判断、指揮指導によって日本に無条件降伏という古今未曾有の屈辱を蒙らせ、そして幾多の人命と海外領土を喪失したのである。その責任は一度や二度の切腹でも許されるものではあるまい。

　日露戦争では旅順要塞に拠り、猛攻に耐えに耐えて日本陸軍に多大の損害を与えたロシアの将軍ステッセルは、後に減刑釈放こそされたが、帰国して一旦は死刑を宣告された。

これに較ぶれば今次大戦における敗軍の帝國陸海軍首脳の将星たちがおめおめと、極東軍事裁判にかけられたのは何たる厚顔振りかと思わざるを得ない。

なんとなれば彼らは前記ステッセルの如き局所の戦闘に破れたというのではない。

彼らは国運を左右する戦争の枢機に参画し、或いは批判してそれなりの影響力を行使し得る立場にありながら、無責任且つ我が身愛しさの卑怯な判断により、ただ手を拱(こまぬ)いて敗勢の赴くままにまかせていたに等しい。

その結果幾多国民の命を奪い、そして海外領土のすべてを失わしめたのである。

十　敗戦の責任以上に許せないものもある

それは文官の近衛文麿さえ逮捕を肯ぜず自ら服毒自決したというに、身を鴻(こう)毛の軽きに譬えて幾百万の兵士を死に追いやつた張本人の東條が、自決偽装のためらい傷で死に損ね、無様な格好で逮捕された。なんと言う卑劣さであろうか、私には戦時捕虜とは比較にならない醜態に思へる。

　いやしくも昭和十六年一月、軍人勅諭に加えて投降を禁じたかの有名な戦陣訓を、陸軍訓令第一号として示達したのは時の陸軍大臣東條英機、彼自身である。

　これを容認、鼓舞鼓吹した軍首脳の無責任ぶりも同罪である。

　勿論当時既に捕虜となることを恥辱とする風潮は強かつた。然し、厳然たるこの訓令の為、更にどれ程多くの将兵が捕虜となるのを恐れてその尊い命を捨てたことか。　　

将兵のみならず、如何に多くの民間人、少年婦女子までもが自ら或は親兄弟の手によってその尊い命を捨てたか。

　戦陣訓本訓其の二第八　「名を惜しむ」　の項　には

「恥を知る者は強し。常に郷党家門の面目を思い、愈々奮励してその期待に答うべし」

「生きて虜囚の辱めを受けず、死して罪科の汚名を残すこと勿れ」とある。

問題はそれを命じたご本人達が東京裁判の結果死刑に処せられたことをどう見るかである。

彼等はおめおめと生きて虜囚の辱めを受けているのである。それも全国民が注視する中でのことである。

なにも恥かしくないのだろうか、それとも彼等は虜囚の辱めも受けず、罪科の汚名を蒙らなかったとでもいうのだろうか。

　東京裁判の正当性については識者が色々論じている。或いは裁判を容認したのではないとか、判決を受け入れただけであるとか、言葉の上で色々屁理屈をこねることは何とでもできる。

然し正義と人道が法廷を支配すべきものであるとすれば、無差別爆撃、更には実験的とも思える原爆投下で何十万もの無辜(むこ)の市民を惨殺した米英等連合国には敗者を裁く資格はない。

体裁だけは法廷の形をとつていても、所詮は報復の為処刑されたのである。　彼等が生きて虜囚の辱めを受け、更に罪科の汚名のもとに殺されたことだけは、厳然たる事実として誰も否定することはできないであろう。

とすれば、正に自らその訓えに背いたことになる。

十一　そんな彼等を��國の神々が喜んで受け入れることが出来るであろうか

合祀について最大の問題点がここにある。

敵と味方が同じく祀られているのではない。恥を知るなら死ねと命じられ、自ら尊い命を絶った人と、それを命じながら己は恥も知らずに捕らわれて処刑された者が同じく祀られているのである。

特に今次大戦の苛烈な戦闘場裏において矢折れ刀(かたな)つき、或は食尽き果てた兵士や民間人までもが、或は捕虜となっておれば救われたであろう幾多英霊戦没者の無念さを思う時、この戦陣訓を強制した戦争指導者の罪科は人間として到底許されるものではない。

先に祀られている��國の神々の身になって考えて見ようではないか。「捕虜になるなら死んでしまへ！」と命じたご本人達が、おめおめ、のうのうと捕虜になって殺されたからといって、これを同じく��國に祀るのは、先に祀られている神々への冒涜にはならないのであろうか？！

　再び云う。戦後日本の最大の過ちは、本来東京裁判があろうがなかろうが、敗戦に到るまでの戦争指導者たちの結果責任を、日本国民が問はなかつたことである。

　更に罪を憎んでも人を憎まないというのは、日本古来の伝統的な考え方である。

然しそれは罪を犯すに至るまでの事情に斟酌すべき点のある日常茶飯事的な場合の話しである。

　結果論であるかも知れないが、彼らにとつても冷静に判断すれば、今次大戦の勝敗は火をみるより明らかであつた筈である。

少なくとも戦前、為政者達は多少でも欧米諸国の文物を見、その歴史観や生産力技術力、そして資源力の相違を充分に見聞していた筈である。

　それも知らずに偏狭な国粋主義を鼓吹して群集心理をあふり、自らもそれに酔い痴れて、国家国民に古今未曾有の惨禍を齎したとすれば、その罪は更に大きいと云わねばなるまい。

　絶大な権力を握り国家の命運を左右した今次大戦の戦争指導者達の罪は、正に万死に値するものであつて、本当は一度や二度の自決でもその罪は償い切れないというべきである。

　重ねて云う。

「罪を憎んで人を憎まず」というのは、平時一般の犯罪についての話しである。

一国の指導者達がその判断を誤り、その強大なる権勢の威圧によって多くの同胞の命が失われた罪は、その余りにも大きさ故、故意の有無や動機がどのようであろうとも、これが許されていいとはどうしても考えられない。

戦陣訓が戦闘無能力者を死地に追いやる鞭であつたとすれば、彼らもまたその鞭を受けなければならない。

彼らの��國合祀を当然とする連中は、先に祀(まつ)られているこの一般戦没者やその遺族の気持ちを忖度したことがあるのであろうか？

更に遺憾なことは遺族会が権勢亡者や偏狭な国粋主義者に牛耳られ、本来あるべき姿を見失っているように思はざるを得ない。

　幸か不幸か勿論そんなことはあり得なかつたことではあろうが、仮に終戦前の日本に諸外国同様反戦革命勢力が台頭して、その結果平和が齎(もたら)されたとすれば、彼等の運命はどの様になったであろうかを想像してみるがよい。

十二　それでも彼らは��國に合祀(し)された！何故か？

��國神社が陸海軍の管理下におかれていた戦前は、先ず陸海軍省から夫々該当の祭神名票が��國神社に送付された。

神社ではその名票の送付をうけて招魂の儀式を執り行ない、それによって��國の神として合祀されるというのがその手順であった。

然し、実質的に祭神として祀るか否かの決定権は軍が掌握していて、��國神社としてはただその決定に異議など挟める立場ではなかった。

戦前戦中は部下の死亡について、今なら上官の重大な責任が問われなければならない場合にも、名誉の戦死や殉職で簡単に片付けられた事例は、憚(はばか)れることながら極めて多い。

それでも軍より祭神名票が送付されれば��國神社は有無も無くこれを祭神として祀り、部外者から異議を申立てられることもなかつたであろう。

そして戦後ＢＣ級戦犯の��國合祀については国内外からも当然のこととして受け止められたが、Ａ級戦犯については��國神社の側でも若干のためらいがあつたものと推測される。

国家の庇護を打ち切られ、単なる一宗教法人となった��國神社側に、断固たる方針を決定する能力の無かったことも悔やまれる。　　

Ａ級戦犯の彼らが合祀されたのは正確には昭和五十三年のことである。

実はその十年以上も前の昭和四十一年に彼らの祭神名票は当時厚生省引揚援護局から送られていた。

この十年余りの空白を断ち切って合祀に踏み切ったのが時の宮司松平永芳である。

　元海軍機関科将校(少佐)の彼を知る人に聞くとなかなかの人物であったというが、私には到底彼の心情は理解できない。

十三　合祀を決断した松平宮司

松平に��國神社宮司就任を勧奨したのは彼の祖父松平春嶽の信奉者でもあつた福井の人、石田和外元最高裁長官ということである。

雑誌「諸君」　「松平永芳氏ー怒りの遺言」（渡辺一雄記）によれば、就任に際し彼は三つのことを決意したそうである。

一に神道の伝統維持、　二に神社のたたずまいの継承、三に名称の維持である。

そして自分の信念に従いＡ級戦犯の合祀に踏み切った。

彼は宮司として飽くまで��國神社の国民護持、国民総氏子の実現をめざした。

更に、国の管理下に入れば前記三項目どころか、政権によっては神社そのものの存続すら危ぶまれる可能性を危惧(きぐ)して、彼は断固��國法案に反対した。そしてそれまでの例大祭参拝ではなく、従来の慣例を破って、終戦記念日に参拝した三木武夫にはじまる歴代首相の��國参拝に対しても、その姑息(こそく)な態度や釈明には痛烈に批判している。

宮司としては当然であるし、何よりも彼ら歴代首相の情けない対応が、内心世界の笑いものになっていることも事実である。然し、今日禍根の決定的な元凶は彼である。

彼は少年時代、海軍機関学校受験の為、平泉澄の家に下宿し平泉自身から薫陶を受けたという。当然彼の思想的根底には平泉の偏狭な皇国史観が蟠踞(ばんきょ)していても不思議ではない。

十四　名票送付の怪？

それにしても何とも不思議なのは問題の祭神名票が担当部局の事務次官ら幹部に無断で��國神社に送付されたというのである。

しかもそれは昭和四十一年のこと、戦後も二十年以上も経過している。

組織の盲点を突いて実行されたであろう名票送付が職権乱用とか越権行為として問題にならなかったのも甚だ不思議に思える。

　二〇〇五年十月三十一日東京新聞がその間の事情を次のように報じている。(要略)　

　・・・この手続きは同省の事務方トップらの知らないところで進められていた。中心となって作業を進めたのは、旧陸軍の流れをくみ元軍人が仕切る援護局（現社会援護局）調査課だった。・・・・・・　

「私たちの課だけ、皆軍人か軍属ばかり。昔の軍隊を引きずっていた」　

一九六〇年代に調査課に在籍した職員は、こう振り返った。 ・・・　

　・・・　幹部には元軍人も少なくなく、特に��國神社から依頼された戦没者調査に携わる調査課は、職員も元軍人や遺族がほとんどで、省内でも異質な課だった。

　ここに戦後間もない四十五年十二月から六十三年三月まで在籍し、強い影響力を行使したのが、終戦時の阿南惟幾（あなみ・これちか）陸相の高級副官を務めた故美山（みやま）要蔵氏だった。 ・・・

　・・・長く援護局次長を務めた美山氏は六十三年に退官したが、祭神名票の送付は、その三年後、陸軍の後輩である局次長と課長の下で行われた。

新証言と合わせると、東條氏らに親近感を持つ元軍人たちが、仲間内で合祀を目指し

た様子が浮かぶ。・・・

　美山氏は��國神社とも深い関係があった。　

神社が国会図書館に提供した資料によると、戦前、戦時中を含めた戦没者合祀は、神社を所管する陸軍、海軍両省の大臣官房に置かれた審査委員会で審査の上、天皇の裁可を得て行われていた。

美山氏は当時その審査委員長であつた。

　��國神社は六十四年、厚生省に「未合祀者の合祀を進めるため、保留になっていた者を含めて、全戦没者の氏名や死因を把握したい」と要望した。

しかし、Ａ級戦犯について言えば、名票を送られてから十二年以上も合祀しないなど、神社側が合祀を急いだ形跡はない。

　神社側は七十年、東條内閣で大東亜相を務めた総代の青木一男参院議員（当時）に

「東京裁判の結果を受け入れることになる」と迫られるなどし、合祀を決めたとされる。

だが、時期については「宮司預かり」とされ、旧皇族の山階宮家出身の故筑波藤麿宮司は在任中に合祀しなかった。

　それが七十八年、一転して合祀に踏み切るのは、・・・後任に故松平永芳宮司が就任してからだ。・・・義父は、インドネシアで刑死された醍醐忠重海軍中将だった。

　こうしてみると、東條氏らの合祀は、戦犯の名誉回復を望む、旧日本軍や大日本帝国の色濃い人々のリレーで進んだことが分かる。

Ａ級戦犯合祀は、祭神名票の送付から十二年半後。それが表面化するのは、さらに半年後。それまでの間、一般国民に情報がもたらされることはなかった。

東條内閣の大東亜相であつた青木一男ら二人の元Ａ級戦犯が松永宮司と気脈を通じ、神社の総代会をリードして合祀に踏み切つたとも言われている。

これらの経緯を考えると、彼らの所業は東京裁判否定に名を借りた偏狭な仲間意識や自己満足的な階級意識の発露であって、国家国民に対する許すべからざる人道上の犯罪行為であると言わざるを得ない。

十五　��國神社は如何にすべきか

　Ａ級戦犯問題は確かに難問である。然しこの問題に関するかぎり、松平宮司や援護局を牛耳った美山次長等一部旧軍人、それに遺族会に食い込んだ元Ａ級戦犯関係者の、無反省且つ自己中心的な策謀に振りまわされたと言えるのではなかろうか？

一番大事なことは��國神社に主体性のないことであろう。

��國神社は誰のものかと問われれば、神社側としては法的には宗教法人��國神社のものであると言わざるを得まい。

然し、宗教法人とは名ばかりで��國神社には教義もなければ教祖も居ない。

そもそも奉祀されている英霊は一体だれのものか？　��國神社に祀られているのだから��國神社のものであるとでもいうのか。

確かに私服とはいいながら中曽根首相が拝殿まで護衛を伴ったのは英霊に対し甚だ無礼である。

然し公人が神道の儀礼とおりの参拝をしなかったからと云って、松平宮司のようにこれを無礼千万と罵るのは些か僭越(せんえつ)である。

しからば仮に外国の儀仗兵が弔銃を放てば、それは英霊に対する甚だしい冒涜(ぼうとく)とであるとでもいうのか。

そもそも英霊自体総てが神道の信奉者ということはできない。

仏教徒もいればクリスチャンもいる。それにも拘らず総ての英霊を神道形式で祀っているのは単なる伝統的な便宜上の問題である。

更に理屈を言えば、��國神社がいくら英霊、英霊と勿体つけて神事を執り行つても、元を糾(ただ)せばただの紙切れ一枚である。

それでも我々がお参りするのはそこに英霊が鎮座ましますものと心に念じ、只管戦争の犠牲者を追悼するためだけのものである。

��國神社はそのための雰囲気づくりに誠心誠意努めればよい。

そして��國神社が真に国民の尊崇を得たいのならば、死してなお国に禍(わざわい)を齎す問題の祭神名票は、恭しく、元の厚生省にお戻しすればよい。

私には、��國神社にとってそれが最良の方法と思える。

��國神社では一旦祀った霊は取り外せないなどと屁理屈を言っているようだが、護国の英霊は��國に祀られてはじめて神となるのではない。

護国の英霊は��國に祀られる以前から神であって、神か神でないかは��國神社の単なる儀式によって定まるものではない。

問題のＡ級戦犯が護国の英霊というのに相応しいか、相応しくないかは国民が決めるべきものである。

注　特別攻撃隊員を募る檄文

　「中部太平洋上に激闘を告ぐる日、朝露を踏んで原頭にたてば、暁雲を衝いて聳ゆる富嶽、厳として気高し。神州日本の正気、切々として胸間に答う。徐に金甌無欠三千年の歴史をひもとけば、重大難局に処すべき必勝の戦略、忽然として心奥に閃く。即ち生を神州に享くる者、誰か国難に殉じ、雲染め、水漬き、草むす覚悟なけんや。今茲に殉国の翼あれば、忽ちにして敵の輪形陣を壊滅し皇国の危急を救い得べきこと明らかなるを思へば湧き上がる若き血潮押さえ難く、誰か身命など惜しまんや。

　茲においてか、簡節にして的確なる神技を重ね、一発必中を期し、以て爆弾を抱いて爆弾と共に祖国の急を救はなん。いざ、この翼今飛ばざれば、何時の日に国に報ゆる時あるらん。」・

・・・・或いは若い参謀の起草した文章であるかも知れない。客気(かっき)満々の檄文である。然し、時の航空総監陸軍中将菅原道大の名で配布されたものとされている以上、その責任は本人が負わなければならない。

（なにわ会ニュース第98号　65頁）

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