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平成22年4月29日　校正すみ

真崎中尉の墓

木村　靖(�Gの弟)

眞崎　三郎

　私の家は甲州街道の明大前です。この近く、明治大学和泉校舎に隣接して築地本願寺別院の和田堀廟所があります。

　ここは樋口一葉、九条武子、藤原銀治郎、水谷八重子、さらに古賀政男それに旧海軍では侍従長、枢密顧問官を務めた百武三郎大将といった有名人のお墓があり、都内の葬儀場としても比較的知られているところです。

　幹線道路沿いといっても人家は無く、静かな一角ですが、この墓地の桜は美しく、季節になると花のトンネルを作ります。

　訪れる人も少なく静かで毎年春になるとブラリと花見散歩に出かけていますが、今年も三月下旬、墓地に行ってみました。

　桜は三分咲き程度。それでも気分は晴ればれとします。

　桜並木の横を曲がって、なにげなく傍らの墓石を見ますと、「海軍主計大尉　正七位　勲六　功五級　真崎　隆之墓」とありました。

　それは生垣に囲まれてお墓が三つ並んで居ます。真中の「真崎家之墓」を囲んで反対側に目をやると、「海軍中尉　真崎三郎之墓」と書かれています。

　この時私は「ご奉公」という言葉が突然浮かび上がって来ました。今この時代、ご奉公の言葉はすっかり死語になってしまいましたが、「兄弟二人もそろって―海軍にご奉公したんだなア―」と改めて、ご奉公の重さを実感しつつ、脇の墓碑を見ますと「昭和十九年戦役　二〇歳　府立一中　海兵七十二期　谷風乗組　中尉」と書いてありました。

　真崎さんという方は、これまで、私は存じていませんでした。

　しかし「七十二」という数字は私にとって亡兄�Gのいわば索引項目みたいになっていますので、急に親しみと・・・・・そして、また同時に「七十二」に思わぬところで出会った、うろたえたみたいな驚きがゴチャゴチャと吹き出してきました。しばらく墓碑の「七十二」の字を見つめていました。

　そして、あらためて桜の樹の下、文字通り同期の桜として亡兄の分も一緒に合掌しました。

　帰宅してから早速「なにわ会名簿」を開きますと、真崎さんは墓碑と同じように「十九年六月十日没　比島タウイタウイ島　谷風」と書いてありました。　　　　　　　　　　　

　そして、驚いたことは真崎中尉の所属分隊は１―４―６となっています。それならば、亡兄の所属分隊は１４―４―１２ですから、いわゆる二号時代は同一分隊のルームメイトだったという事になります。

　また念のため手もとの資料を見ますと、谷風は陽炎型の駆逐艦で十七駆逐隊に属し、真珠湾から活躍し、十九年六月九日ポルネオのタウイタウイ湾口で対潜哨成中、米潜水艦「ハーダー」の雷撃を受け沈没と記載されていました。（「第二次米国海軍作戦年誌」　「聯合艦隊軍艦銘銘伝」）

　蛇足ですが、真崎中尉の父君は有名な真崎甚三郎陸軍大将の令弟で勝次少将（兵34期）大湊要港司令官を最後に転進、政治家になられたことは別の資料で知りました。

　四月五日たまたま日本経済新聞を見ていましたら、代議士の田川誠一氏が「交遊抄」で戦争末期卒業した前橋陸軍予備士官学校の戦友の思い出を書いていました。

　そして念願の友魂記念館建設のことにふれてつぎのように文章をしめくくっていました。

　「交友とは生あるもの同志だけのものではない。生死を分けへだてられた友とも心の交流を終生つづけるべきであると思う」

　同感です。

　しかし具体的に、私の場合は・・・・この記事から、なにやら一つの宿題を私は一

わたしなりに与えられたような気がしてきました。

　いずれにしろ、真崎中尉のいる和田堀廟所にこれから亡兄に代わって、出かける機会も増えると思います。

　追伸

　四月六日、所用で勤めを休んだ折、あらためて真崎中尉の墓を訪れ線香をあげて来ました。

　和田堀廟所の桜は散り、墓地その花びらで初雪のようにうっすらと積もっていました。

　それとも花ビラの絨毯といっていいのでしょうか。趣のある風情でした。

（なにわ会ニュース61号21頁　平成元年９月掲載）

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